　１０月の初旬かねて病気療養中だった税理士のＭ先生がお亡くなりになりました。私より１７歳年上の７０歳でした。
　私が税務署を辞めて勤務した会計事務所の先輩であり、２０年以上続く税理士の勉強会のメンバーのおひとりでした。
　かれこれ公私にわたり数えきれぬほど仕事、勉強、旅行、ゴルフでご一緒させていただきました。
　病院の霊安室でお目にかかりましたが、涙、涙です。
　生前のＭ先生の人柄をそのまましのばせる安らかなお顔でした。
　私とＭ先生の間柄は、自分が２１歳の時、今から３２年前にさかのぼります。
　私は中央大学の３年生。税理士試験の簿記論、財務諸表論という会計科目を受験した後の９月のある日のことです。
　９月のある日とはたまたま我が家に赤い新車のブルーバード～沢田研二がテレビコマーシャルで宣伝していた車が納車された日の翌日が９月２３日だったのでした。
　試運転がてら父と弟を乗せＭ先生が会計事務所を独立するお祝いに向かいました。
　秋晴れの静かな休日でした。
　私としてはどちらかと言うと父のお供でその祝賀会に出席したという感じでした。私が記憶しているＭ先生は明るくチャーミングな奥様と祝宴を素直に受けているという印象でした。Ｍ先生３８歳の時です。
　それから月日がたち私は税理士試験に合格し、お世話になった会計事務所から独立させてもらうことになった平成５年の秋、Ｍ先生から所得税の調査の相談を受け先生の事務所で打ち合わせをしていた時です。
　先生の事務所の電話が鳴ります。「・・・それなら適任の人がいますよ。・・・」先生の顧問先で独立しようとする従業員に誰か税理士を紹介してほしいという内容の電話のようでした。
　電話をきった先生は「山ちゃん。顧問先から独立したいという人がいるんだけど面倒みられないかな？」開業したての私にお客様を紹介してくれたのでした。
　その後Ｍ井さんという不動産収入のあるお父様、お母様、お子様二人、計四人の確定申告の仕事を先生と分担して１５年以上お仕事をさせていただくことになります。
　その間Ｍ井さんのお母様が亡くなり、その後お父様が亡くなります。
　不動産所得の申告する方はお子様二人になります。
　私は時折気づいていたことですが、Ｍ先生、お子様二人の質問にイエス・ノーをはっきりとどちらかというとぶっきらぼうに答えます。
　普段の先生らしくないなぁと思っていました。
　お父様が亡くなった後、先生は私にこうおしゃいました。「山ちゃん、もう自分の担当するお父さん亡くなったからこれからは山ちゃんが面倒みてあげてよ。」自分の顧問先に固執する人もいるのにきれいな身のひき方のように思いました。
　後で考えると逆に先生はわざとＭ井さんに嫌われるように振る舞っていたのでは・・・とも思えます。
　これでは泣いた赤鬼です。
　Ｍ先生のすばらしいところは決して争わないことです。
　やさしく、おだやかそして自分を強く主張しない、利害が対立する前に身を引いてしまうお人柄でした。
　Ｍ先生は、気は長く、心は丸く、腹立てず、人は大きく、己は小さく、を実践された人だったと思います。
　結局私は大好きな青鬼に去られ、ただ泣くだけの赤鬼だったのかもと思います。

Ｍ先生のご冥福をお祈りいたします。

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