私が生まれて初めて意識して「握手」をしたのは１９歳の時です。
高校3年生の冬､大学進学が決まり小遣い稼ぎの為、新宿南口の馬券場やポルノ映画館のある少しいかがわしく、にぎやかな場所にある「ハイファ」という純喫茶の店でアルバイトをしていた時でした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
それまでもアルバイトをした経験はありましたが、親戚や同級生の親の仕事の手伝いなので、見ず知らずの他人様からお金を頂戴することは初めての体験でした。
その店のメニュ－はどこにでもあるものでコ－ヒ－、紅茶、ソ－ダ水、アイスクリ－ム、ト－スト、ピザト－スト、スパゲティ、ミ－トソ－ス、ナポリタン、ピラフ、チョコレ－トパフェなどでした。
朝番と言うのでしょうか。午前９時から５時までの勤務で、ウエイタ－として１日中立ちっぱなしのお仕事です。
客から注文をとり、それを厨房に伝え客にその注文物を届ける。
さすがの高校生も１週間くらいの間、疲れて家に帰るとバタンキュ－でありました。
しばらく勤めていると店長から「山田君そろそろカウンタ－に入らない？」と誘われました。
カウンタ－・・・つまりコ－ヒ－を入れたり、ソ－ダ水を作ったり、スパゲティを炒めたり、皿やコップを洗ったりするお仕事です。
つまり、高校生の山田くんはウエイタ－から皿洗いに昇格したのでした。
歩かずにすむので体は楽になります。
そのうち勤務時間も朝番から遅番にシフトが変わるようになりました。
そんな時バイト仲間から「山田くんは西さんと、うまくやれるかなぁ。西さん気むずかしいからなぁ。」ということを言われました。
どうも、同じ厨房で働く先輩さんのことのようです。
「西さん、気に入らない相手だと一日中ひと言も話さない時があるんだよ。」西さんってどんな人なのだろう？
カウンタ－に入って少し楽が思ったのに、やはり世の中そんなに甘くないようだと山田青年は感じたのでした。
　
そして、とうとう西さんと一緒に仕事をすることになりました。
西さん～ポマ－ドできっちり固め、長身で足が長く色白、チャックベリ－を日本人にしたような容姿の人でした。
本人曰く、当年３０歳で以前はバンドでギタ－を弾いていたとのこと、元ミュ－ジシャンだったのです。
ザ・ロ－リング・スト－ンズ、エリック・クラプトンなどの話をするとどんどん乗ってきます。
「こんな話できる奴と仕事したかったんだよ。」彼に調理の仕事を教えてもらい、仕事が終わった後は西さんの自宅に行ったりしたのでした。
バイトをやめた後も時々「ハイファ」に顔をだし西さんとの交流は続きました。
いろいろことを相談できる兄貴のような存在になっていました。
１年経った大学１年のクリスマスイブの日、特に目標もなくたらたら学生生活を過ごしていた自分は飲み会の後一人でハイファに行ったのでした。
今思うと少し淋しかったのかもしれません。
西さんと少しおしゃべりをし、帰ろうとすると、彼が大きい右手を私に差し出し手を握ってくれたのでした。
自分にとって生まれて初めての握手でした。
彼は笑みを浮かべ私の目をまっすぐ見て「ハッピ－クリスマス」と言ってくれました。

何となく兄貴に励まされたような気がしました。
人生に必要な言葉の１つ「がんばれ」を握手で示してくれた気がしました。

握手は人と人とのコミュニケ－ションをする時に大切なアイテム１つだと思います。
何かの際、恥ずかしがらずに「握手」してみてはいかがでしょう？

では、皆様どうぞよいお年をお迎えください。

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