個人の方へ
法人成り
個人事業主、節税改
事例研究
所得税税法上 もくろみ、慣行及び嗜好として負担した支出(家事関連費)と必要経費の範囲について
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
平成28年10月 次の借地権をその土地の持主に明け渡した
所在 名古屋市西区
地積 600㎡
代金 10,000,000円
売主 M代
買主 地主H
路線価 100,000円 借地権割合 50%
相続税評価額 18,000千円
敷地内に築50年程度の4棟の建物が現存していたがすべて収去して明け渡すことが要件となっている。
借地権は明治時代から賃借が行われ、H雄(平成13年死去)の代まで契約書はなく口答での契約であったが平成16年に文書による借地契約を作成した。
過去から現在まで権利金、更新料等の支払は一切なく月100,000円の地代の支払いのみである。
H雄の死後、相続人であるM代が家屋の謄本を確認したところ1棟の家屋木造平家建37㎡が地主に無断で昭和62年名古屋市に住むKに売買により所有権が移転していることが判明した。
Kは平成9年に既に死亡している。
この間住居の使用、地代の支払いの事実はない。
M代とKの相続人との間の協議はかなり難航したが平成26年10月H雄を売主、Kを買主とする昭和62年の売買契約の解除の合意が成立した。
弁護士に支払った費用180万円、Kに支払った和解金100万円は譲渡所得の計算上取得費または譲渡費用に算入できるか。
回答
借地権の取得費に算入できない
思考過程
1. 譲渡所得の金額
譲渡所得の金額は、その年中のその所得に係る総収入金額からその所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額である。(所得税法33条3項)。
総収入金額とは基本的には譲渡対価の額の合計額をいい、取得費とはその資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額(所得税法38条1項)と定められている。また、資産の譲渡に要した費用の額とは、資産の譲渡に関して支出した費用のうち、譲渡のために直接必要な経費であるとしている。(基通33―7)
算式で示すと
総収入金額―(資産の取得に要した金額+設備費+改良費+譲渡費用)-特別控除額 となる
総収入金額とは客観的な価格をさすものではなく具体的な場合における現実の収入金額をさす。(最高裁36.10.13)
2. 従来の譲渡所得の基本的考え方
譲渡所得は、基本的に取得時の(改良費及び設備費を含む)費用を取得費として、譲渡時の費用を譲渡費用として控除するにとどめ、この二時点以外の費用は控除対象外となる。
費用収益の原則は適用されず期間費用という概念がない、従って取得と譲渡と直接対応関係にない(維持管理費)は譲渡費用にとり込む余地がない。
増加益清算説と譲渡益所得説
「増加益清算説」とは,譲渡所得に対する課税を,所有資産の保有期間中
の価値増加益(キャピタルゲイン)であるとし,その資産が所有者の
支配を離れて他に移転するのを機会に,その所有期間中の増加益を清算し
て課税しようとするものである。従って,その資産の譲渡が有償か無償かを問わず,価値増加益としての譲渡所得が発生する。
無償を除くのは政策的配慮から原則譲渡費用は認めない立場で判例はこれを支持している。
「譲渡益所得説」とは,資産の値上がりの有無に関係なく,
その資産の譲渡による現実の収入金額(譲渡価額)からその資産の取得費
等を控除した残額を所得として捉え,これに担税力を認めて課税しようと
するもの。無償譲渡は課税しない。
実際の譲渡所得の計算は,基本的には譲渡収入から資産の取得費及び
譲渡費用を控除して譲渡益が算出される。
譲渡所得課税の本質
最高裁S43.10.31
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりにより、その資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものである。
東京高裁S48.5.31
増加益とは所有者の意思によらない外的条件の変化による資産の値上がり益をさす。
つまり判例読む限り所有者の意図的努力の結果を十分考慮していない。
取得費、改良費及び設備費の定義についてはS52.2.25塩田跡地の埋め立て費用が取得費に該当するか争われた長崎地裁の判決がある
譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費とは、所得税法38条1項に、「別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。」と規定されているところ、右にいわゆる取得に要した金額とは、資産が他からの購入資産である場合には、買入れ原価のほか、手数料登録税等の資産の取得に要したすべての費用を含み、設備費とは、資産取得後において資産の量的改善に要した費用をいい、改良費とは、資産取得後において資産の質的改善に要した費用をいうものと解するのが相当である。
としている。
資産の取得に要した金額つまり付随費用については最高裁平成4年7月14日判決がある。三輪田事件
これは、資産を現実に使用したか否かにかかわらず、当該資産の取得
のために要した借入金利子の全部を控除すべきという納税者の主張に対し、個人がその居住の用に供する不動産を取得するための借入金の利子のうち、当該不動産の使用開始の日以前の期間に対応するものは、所得税法38条1項(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)にいう「資産の取得に要した金額」に含まれ当該不動産の使用開始の日の後のものはこれに含まれないとされた事例である。
(この判決以前に土地を使用しないまま譲渡した場合であっても借入金の利子を取得費に算入するという昭和54年高裁の判決により借入金の利子の取扱が改められている。)
所得税法33条3項(譲渡所得)が総収入金額から控除し得るものとして、当該資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せず、取得費と並んで譲渡に要した費用をも掲げていることに徴すると、同法38条1項(取得費)にいう「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等当該資産を取得するための付随費用の額も含まれるが、他方、当該資産の維持管理に要する費用等居住者の日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解するのが相当である。
個人がその居住の用に供する不動産を取得するために借入れをした場合、右借入れの後、当該個人が当該不動産をその居住の用に供するに至るまでにはある程度の期間を要するのが通常であり、したがつて、当該個人は右期間中当該不動産を使用することなく利子の支払を余儀なくされるものであることを勘案すれば、右の借入金の利子のうち、居住のため当該不動産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、当該不動産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができ、当該個人の単なる日常的な生活費ないし家事費として譲渡所得の金額の計算のらち外のものとするのは相当でなく、当該不動産を取得するための付随費用に当 たるものとして、所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に含まれ、当該不動産の使用開始の日の後のものはこれに含まれないと解するのが相当である。
とし資産取得に係る借入金の必要性は個人ごとに異なり利率も一定とは言えないので借入金の利子は第三者から見て客観的価格を構成するとは言えないがそれでも取得費に算入されることを示した。
また、家事費も取得費となる可能性があることを示唆している。
また資産の取得に要した金額は、改良費及び設備費を除き必ずしも取得時に支出したものだけではない判決がある。
最高裁平成17年2月1日 右山訴訟
贈与等により資産を取得した者が当該資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算において「その者が引き続きこれを所有していたも のとみなす」というその規定の趣旨からして、受贈者が所有する資産についての譲渡所得課税においては、贈与の前後を通じて受贈者が引き続き当該資産を所有していたとみなされるのであるから、受贈者が自己への所有権移転のために支払った費用があったとしても、本件譲渡所得金額の計算においては、上告人が父から本件会員権の贈与を受けた事実も、その際に上告人が本件手数料を支払った事実もなかったとみなすことになるから、本件手数料は法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たらない。という国側の主張について
ゴルフ会員権を受贈者が自己名義にするための手数料は、同会員権を取得するための付随費用に当たり、「資産の取得に要した金額」として譲渡所得の収入金額から控除すべきものとされた事例である。
「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される。
受贈者の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに、贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果、資産の保有期間(法33条3項1号、2号参照)については、贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなる。
このように、法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は、法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである。とした。
また、東京高裁平成23年4月14日判決では、ゴルフ会員権の名義書換料が認められるなら遺産分割に係る弁護士費用も取得費に算入されるという納税者の主張に対して
遺産分割は、共同相続人が、相続によって取得した共有に係る相続財産の分配をする行為であり、これによって個々の相続財産の帰属が定まり、相続の開始の時にさかのぼって、各相続人が遺産分割により定められた財産を相続により取得したものとなるのである(民法909条)。
遺産分割の法的性質に照らして考えると、遺産分割は、これにより個々の資産の価値 を変動させるものではなく、遺産分割に要した費用が当該資産の客観的価格を構成すべきものではないことが明らかである。そして、遺産分割は、資産の取得をするための行為ではないから、これに要した費用(例えば、遺産分割調停ないし同審判の申立手数料 )は、資産を取得するための付随費用ということもできない。としている。
この中で専門家の費用について次のように言及している。
確かに、所得税基本通達60-2は、相続により譲渡所得の基因となる資産を取得した場合において、当該相続に係る相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用を支出しているときは、これを当該資産の取得費に算入できる旨定めており、原審も、付随費用に該当するか否かの判断基準を、その支出がその資産の取得にとって通常必要と認められるか否かに求めている。
しかしながら、資産の取得者が資産の取得に必要な行為をするに当たり専門家の力を借りた場合の報酬等については、そのことが社会的に承認されているものについては、それが当該行為に必要とはいえなくても、資産の取得に付随して要した費用というべきであり、取得費に当たると解するのが相当である。
つまり専門家に支払う費用は、そのことが社会的に承認されているものについては、それが当該行為に必要とはいえなくても、資産の取得に付随して要した費用に属するとした。
3. 取得費についてのまとめ
取得費とは、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額をいう。
資産の取得に要した金額とは、資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等当該資産を取得するための付随費用も含まれる。
設備費とは、資産取得後において資産の量的改善に要した費用をいい。
改良費とは、資産取得後において資産の質的改善に要した費用をいう。
付随費用とは、「資産を取得するに伴う付随費用」とか「資産を取得す
る際の付随費用」などと異なり、資産の取得と何らかの関連性があればそれに当たることが肯定されるような広範なものでなく、不動産取 引をしようとする場合には必然的に支出をしなければならない支出であって、取得資産が所有者の支配下で価値を増加するための前提条件をなすもの」、「支払を余儀なくされるもの」をいう。
4. 譲渡費用
譲渡に際して譲渡を実現する為に、直接必要な支出(経費)をいう。
判例では
最高裁昭和36年10月13日
「譲渡に関する経費」とは、原判示のように、譲渡を実現するために
直接必要な支出を意味するものと解すべく、本件譲渡資産上の抵当権抹消に300万円を要したからといって、右300万円をもって譲渡に関する経費ということはできない。とし東京地裁昭和49年7月15日判決
では、所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」とは、譲渡のための仲介手数料、登記費用等のように、当該資産の譲渡のために直接かつ通常必要な経費を指すものと解すべきである。としている。
また、直接性についてはその費用がたとえ譲渡実現に不可欠なものであってもその費用の支出によって別の目的が実現されたり、別の行為に関係があったりする場合はその譲渡との直接性を否定している。
たとえば、抵当権抹消費用や遺産分割の費用、移転先家屋の購入費、引っ越し代などである。
農地転用決済金が譲渡費用になるか争われた事例
最高裁平成18年4月20日
納税者が土地改良区に支払った決済金は、譲渡した土地が土地改良区内に存在する農地である限り将来において負担すべきものであり、当該土地が転用されたことにより、土地改良区との間で一時にその決 済が必要とされたものにすぎないものであって、譲渡とは別個の転用という理由により必要とされた費用であるから、譲渡に直接必要とも譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用ともいうことはできず、譲渡費用には当たらないとした国側の主張に対し最高裁は、
所得税法上、抽象的に発生している資産の増加益そのものが課税の対象となっているわけではなく、原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象となっているものである。
そうであるとすれば、資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。
本件売買契約は農地法等による許可を停止条件としており、本件土地を農地以外の用途に使用することができる土地として売り渡すことが契約の内容となっていたものである。本件土地を転用目的で譲渡する場合には決済金の支払をしなければならず、決済金は、客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用に当たり、本件土地の譲渡費用に当たるというべきである。とした。
従来の直接必要な支出または直接かつ通常必要な経費ではなく現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきという考え方は、画一的に判断するのでなく客観的に譲渡を実現するために必要な費用か判断するという譲渡益所得説に近い考えで譲渡費用の範を広げるものと言える。
具体例
仲介料、登記費用・・・譲渡に必要不可欠 消極的費用
立退料・・・・・・・・積極的費用 譲渡価額の増加に寄与するから
条件立退料の支払が譲渡の時期と直接関連性がなくてはならない。
S49.3.8大阪地裁 8年前の立退料は譲渡費用にならない
以上の事実殊に調停申立の時期がAB土地譲渡のそれより8年以上も前である事実によれば、AB土地を譲渡するために右西村を立退かせたのではないことが明らかであるから、仮に原告において主張するような調停費用を支出したとしても、それが右土地の譲渡に要した費用に当らないことは明らかである。
無道路譲渡のため私道建設費 譲渡費用 静岡地裁S54.11.27
私有道路の建設は土地の売買契約成立に不可欠の特約であつたものと解されるから、この特約に基づいてなされた私有道路の建設に要し た費用は土地の譲渡に直接要した費用であるものと認められる。
これら判例から譲渡費用を検討すると次のような点が条件として考えられる。
5. 譲渡費用の条件
1.支出の原因が譲渡に着手し、終了するまでの譲渡行為の範囲内にあるもの
2.客観的にみて譲渡をする上で必要な費用であること
または
3. 資産の価値を増加させるもの
6. 設問の当てはめ
弁護士費用及び和解金は譲渡の2年前のもので支出の原因が譲渡に着手し終了するまでの行為という要件を欠いているため該当しない。
7. 取得費に該当するかの検討
基本通達(所得権等を確保するために要した訴訟費用等)
38-2 取得に関し争いのある資産につきその所有権等を確保するために直接要した訴訟費用、和解費用等の額は、その支出した年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、資産の取得に要した金額とする。
s491224の裁決事例
相続により既に取得した資産について、その登記名義を真正の所有権者の名義に変更するための訴訟費用について、本件宅地の取得費に当該訴訟費用等を算入していることについては当事者間に争いがないとし(この裁決は訴訟費用に係る借入金の利息について争われた。納税者敗訴)税務執行上、取得に関し争いのある資産について、その所有権等を確保するために直接要した訴訟費用、和解費用等の額は、各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、その資産の取得に要した金額とすることに取扱われているが、この取扱いは取得に関し争いのある場合には訴訟等によってその争いを解決しない限り所有権等を確保することができないような事情が存することから、直接要した訴訟費用、和解費用等に限り、特に取得に要した金額に含めることとしている。と判断している。
上記裁決では被相続人の取得時に争いがあったもので相続人がそれを引き継いだにすぎない。
今回の事例は、先祖代々問題なく借地権を利用していたがH雄が借地権について権利譲渡らしきことをしたため生じたもので、争いのある又は紛争を生じることが予想される資産に該当せず、その支出は資産の維持管理費に該当しその和解金、弁護士費用は取得費とはならない。