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法人成り
個人事業主、節税改
事例研究
所得税税法上 もくろみ、慣行及び嗜好として負担した支出(家事関連費)と必要経費の範囲について
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
マンションの譲渡が譲渡所得となるか雑所得となるかの判断基準
平成25年12月
港区で写真スタジオを営むMは事業のかたわら4年程前からワンルームマンションを購入し不動産賃貸業を営んでいる。
不動産譲渡のために特に事務所も設けず広告活動もしていない取引相手は、不動産デベロッパーのTのみである。
将来的には1室単位で購入したマンションを売却し効率の良い1棟単位をマンションの取得を考えていた。
昭和61年 購入してあったマンション7戸を次の通り売却した。
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| 物 件| 面 積 |売却年月日| 購入年月日 | 収入金額 | 必要経費
| 所在地|(平方米)|昭和61年| | (千円) | (千円)
|----+-----+-----+--------+------+------
|1渋谷区|20.25| 9.26|61. 7. 5| 33800| 27648
|2中央区|41.43| 7.27|60. 9. 5| 43800| 28347
|3港 区|32.04|11.25|60.12.25| 48800| 29732
|4文京区|47.84|11.18|61. 7.31| 49300| 40213
|5港 区|25.86| 5.24|59.12.24| 23300| 16431
|6中央区|42.09| 4.25|60.10.29| 23500| 22598
|7中央区|24.04| 4.15|61. 1.23| 20000| 19458
|-------------------------+------+------
| 合 計 |242500|184429
その売却収入は242,500千円 売却益は5800万円であり買換特例の適用を希望している。
検討事項
不動産の譲渡による所得が譲渡所得となるか。雑所得になるかの判断基準は何か。
結 論
雑所得となる。
思考過程
資産の譲渡による所得は譲渡所得に該当する。(所法33①②)ただし、譲渡所得のうち棚卸資産(これに準ずるものを含む)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は譲渡所得とはならない。
この理由は、譲渡所得は臨時的・偶発的に発生したもので、たまたま所有者の支配を離れて他に移転することによる清算所得であるため税負担の衡平を図る見地からその負担を少なくしている。
これに対し、営利性・継続性のある譲渡による所得は、経常的・計画的に発生するものであるため譲渡所得とはならず事業所得か雑所得に分類される。(以下事業所得等)この区分の違いにより譲渡所得では保有期間による累進税率の緩和や買換等特例などの適用が受けることができる。
反面事業所得となれば累進税率が適用される。また、雑所得となれば事業所得に比し資産損失の必要経費算入(所法51①④)、貸倒損失の取扱い(所法51②、64①)や事業専従者給与の必要経費算入(所法57①③)等ができず、さらに赤字は他の所得との損益通算ができなくなる。
通達では、事業者が極めて長期的(おおむね10年以上)保有していた固定資産(在庫を除く)の譲渡による所得は譲渡所得に該当するとしている。(所基33-3)従って資産の譲渡が譲渡所得となるか事業所得となるかの区分は実務上重要でありその区分は、「営利を目的として継続であるか」か「たまたま」なものであるかとされ税法上の不確定概念のひとつと思われる。
判例では概ね次の6点を元に総合的に判断するとしている。
1. 資産の売買回数
2. 数量又は金額
3. 売買の相手方
4. 資産繰り
5. 施設の有無、広告宣伝費等の方法
6. 資産の取得及び保有状況 など
・将来美術館を設立する構想を基に行ったとする絵画の売買が雑所得とされた事例(最高裁H11年6月24日棄却確定)では
1. 資産の売買回数~2年間で19回
2. 数量又は金額~売買数量31点、売買金額2年間で5億6000万
3. 売買の相手方~サザビース他ニューヨークオークション
4. 資金繰り~借入有り
5. 施設の有無広告費の方法~店舗はなくオークションに出品しているため広告もしていない。
6. 資産の取得、保有状況~納税者の営む会社の倉庫に無償にて保管
争われている年分は平成3年及び4年であるが裁判所は銀行から借入により多数回にわたって売買し、多額の売却益を生じているから「営利を目的として継続的に行われる資産に譲渡」に該当するとしており、1.2.及び4要件を具体的判断としている。
また、5の施設、広告の有無については認定を左右するものではないとしている。
また原告が絵画を取得したのは、美術館を開設する目的を実現するためで絵画を売却は資金繰りのためコレクションのテーマの変更のため及びより良質作品収集のためであっても「継続的に行われる資産の譲渡による所得」に該当するか否かの判断に当たってはその者の行っている資産の譲渡の客観的な態様・状況を基に判断すべきであるとし将来どのようにしたいという構想はこの判定には関連がないとしている。
売買数量 売買回数 売却数量
昭和62年 16 5 1
昭和63年 9 7 2
平成元年 26 7 8
平成 2年 36 7 9
平成 3年 15 11 12
平成 4年 16 8 15
・逆に土地の譲渡が譲渡所得であるとされた事例(名古屋高裁S48-11-30確定)では
1の売買回数は2年間で3回、
4の資産繰り~借入なし
5施設及び広告~なし
6の取得及び保有の状況~造成等加工がない
ということで営利を目的として継続的に行われたものであると到底認め難いとして納税者の訴えを棄却している。
これらのことから十分な基準は見いだせず、あくまで総合的判断という不確定概念を計数化することは困難であるが次の項目を5つ以上満たしている時は事業又は雑所得となる可能性が高いと思われる
1. 資産の売却件数が1年間で3戸以上か
2. 上記の状態が2年以上継続しているか
3. 売却益は発生しているか
4. 銀行借入をして行っているか
5. 短期間の売買か
6. 物件を造成加工しているか
当事件をあてはめてみると昭和57年よりワンルームマンションの売買を始めており昭和60年においても9戸購入し4戸売却している。
昭和61年も7戸を売却、取得もすべて3年以内に取得したものである。
金融機関の借入もあり当然売却益も発生している。
従って1~5の条件を満たすことになり譲渡所得とはならない。
また、事業としての売買かというと不動産売買の人的、物的設備もない為雑所得に該当すると思われる。
●問題点
今回の事例の場合買換え特例を申請しており譲渡益が新しい資産の取得に充当されている。
担税力の点からして譲渡所得となるか雑所得となるかは納税者にとって大変重要な事柄であるといえる。しかし、課税庁は事前に具体的は基準を示さず申告後雑所得に該当するとして更正処分を行っている。
これは、制限速度を明示しない道路でスピード違反の取り締まりをするようなものである。
課税の公平の担保にはなるだけ不確定な概念なくし誰でもわかるような具体的基準を示すべきであると思われる。