個人の方へ
法人成り
個人事業主、節税改
事例研究
所得税税法上 もくろみ、慣行及び嗜好として負担した支出(家事関連費)と必要経費の範囲について
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
シングルマザーが支払うベビーシッター代は必要経費となるか
シングルマザーの美人弁護士が仕事のためにベビーシッターを依頼した。
その支出は年間200万円である。
当人は、事業所得の必要経費の計上を希望している。
彼女には、必要経費に計上できない旨伝えたところ、それでもあなたは私の顧問税理士なの?と言われてしまった。
顧問税理士としてどうのように対応するか?
問題点
シングルマザーのベビーシッター代は必要経費になるか
回答
必要経費に算入できる
思考過程
所得税の条文を確認する。
(所得税の必要経費)所得税法第37条
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
条文の中身は法人税法22条に似た構成で、企業会計の費用収益対応の原則に則り、前段が売上原価などの直接対応費用そして後段が販売費および一般管理費その他の費用などの期間対応費用に区分できる。
また、 個人は、法人と異なり消費主体でもあるため必要経費のほか家事費及び家事関連費が存在する。
そのため下記の規定が設けられている。
家事費とは、所得税法上定義がないが衣食住、娯楽及び教養費などさし
家事関連費とは、必要経費と家事費を併有している支出をいう。
(家事関連費等の必要経費不算入等)第45条
居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの
(家事関連費)令第96条
政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
上記条文を要約すると、次のようになる。
家事費は必要経費に算入しない。
家事関連費とは
① 主たる部分が業務の遂行上必要(必要な部分が50%超であれば切り分けできる部分は必要経費と判断~所基通45-2)であること。
ただし、50%以下であっても業務に必要である部分を明らかに区分することができればその金額。
② 青色申告者で、取引の記録などに基づいて、業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分することができる場合のその区分できる金額。
(1) 必要経費算入の要件
業務の遂行上必要(その他所得を生ずべき業務について生じた費用)であるとは
家事関連費について業務の遂行上必要であるとは業務に関連して支出されるすべてのものなのか、業務遂行上不可決な支出か、今までの判例学説では業務との直接的な関連性が要求されるとしている。
裁決及び判例を検討すると客観的にみて業務と直接関連をもち且つ業務の遂行上通常必要な支出と判示(青森地裁昭和60年11月5日)している。
つまり直接性、通常性(東京高裁H18.3.16)、必要性、客観性の4つが必要で、逆にこれらに該当しないものは家事費とされる。
東京高等裁判所 弁護士業の必要経費/弁護士会役員の交際費等
平成24年9月19日判決 その後最高裁が上告不受理と決定して確定した(平成26年1月17日)。
弁護士会の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等について、事業所得の計算上、必要経費になるか争われ一部認められた事例
判決の主旨
所得税法施行令96条1号が、家事関連費のうち必要経費に算入することができるものについて、経費の主たる部分が「事業所得を‥生ずべき業務の遂行上必要」であることを要すると規定している上、ある支出が業務の遂行上必要なものであれば、その業務と関連するものでもあるというべきである。それにもかかわらず、これに加えて、事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではないことからすれば、被控訴人の上記主張は採用することができない。
弁護士会等の役員等として行った活動に要した費用であっても、これが、控訴人が弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば、その事業所得の一般対応の必要経費に該当するということができる。
と直接性を否定している。
また、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額という文言から通常性という要件も読み取ることができないので
業務の遂行上必要とは、販売費及び一般管理費その他の費用などの期間対応する支出で客観的に見て業務の遂行上必要な支出(直接間接問わない)と定義できる。
つまり期間対応の支出は収入を得るため客観的に必要なものであれば必要経費といえる。
問題のあてはめ
ベビーシッター代は収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額かどうか検討するに当然そのような売上原価には当たらない。
では、業務上の費用の額つまり客観的に見て業務の遂行上必要な支出であり且つ業務に関連した支出に該当するかどうか検討する。
業務上の費用であれば家事関連費を検討する必要はない。
ベビーシッターを雇わなければシングルマザー弁護士は業務を遂行できない。
200万円の支出に対して仮に2,000万円の所得が得られ、もし、依頼をしなければ所得が半分以下になるという経済的判断からやむなく支出するもので、食事をしなければ仕事ができない(家事費)こと同視するものでない。
仕事で出張し宿泊した場合その宿泊費は、当然必要経費に計上できる。
本来睡眠をとるという行為は家事費であるが、業務遂行のためどのように考えても必要な支出であるため必要経費となるならば、安易にベビーシッターの費用を家事費とすべきではない。
託児所、保育園は、どのようにとらえるのかということになるが、業務上同所への送迎行為ができないことを考慮してベビーシッターを雇ったと考えると業務関連性があると考えられる。
従って、収入を得るため客観的に必要な支出として必要経費に算入できる。