個人の方へ
法人成り
個人事業主、節税改
事例研究
所得税税法上 もくろみ、慣行及び嗜好として負担した支出(家事関連費)と必要経費の範囲について
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
平成16年6月
個人事業主であるXは、自己の事業の用に供するため平成X年建設中であるマンションの店舗部分を購入することに決め、同年11月26日売主Aと不動産売買契約を結び同日手付金として購入代金の10%である300万円を支払った。
翌年4月14日以前より売主側工事業者の対応に不審をいだいていたXは、物件引渡し前の確認時に契約時の設計図面と現況区画が異なっていることに自ら気づき、次のことを売主Aに対して強く希望した。
1.契約時の設計図面どおりの施行、引渡し
2.引渡し直前の重大な契約違反に対する精神的損害に対する補償
3.引渡し遅延による経済的、精神的補償
Xの要求に対し、売主Aは契約時の設計図面どおりの施行ができなかったことを認めたうえで、次の対応を行った。
1.専有面積不足分の修正工事
2.Xの希望する内部間取りの変更工事
そのうえで、XとAは協議を行いXはAに対し、当初の契約図面どおりの引渡しができなかったこと及び引渡し期限が遅延したことの迷惑料として金300万円を支払うことで両者は合意した。
問題点
Xが収受した迷惑料(損害賠償金)は、全額非課税となるか。
回答
300万円のうち2356千円が所法9条による損害賠償金として非課税
残額644千円はXの一時所得に係る収入金額となる。
思考経過
損害賠償金とは、違法行為や不法行為によって発生した精神的損害として支払われる金額のことをさす。
今回の事例の場合、Xには全く落度がなく、すべて売主Aの契約違反が起因して生じたことであると思われる。
売主Aは、民法415条(債務不履行)、民法709条(不法行為)、民法710条(精神的な損害の賠償)などによりXに対して損害賠償責任を負う。
所得税法上の当該事例の損害賠償の取扱いは、次の3つに区分することができる。
非課税のもの 所法9十六、所令30
1.(1)心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金
(その損害に起因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)
(2)不法行為その他突発的事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金
2に該当するものを除く。(以下同じ)
(3)心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金
事業所得となるもの 所令94条
2.事業者が業務の遂行により生じるべき収入に代わる次のもの
(1)棚卸資産について受ける保険金、損害賠償金、見舞金など
(2)業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により収益の補償として取得す
る補償金など
3.一時所得となるもの
営利を目的とした継続的行為から生ずる所得以外の所得で、対価性のない臨
時的、偶発的に発生するもの。一種の紛争解決金であれば一時所得となる。
当該事例の場合、令94条にいう業務遂行による収入補償の要素は僅少で、売主の重
大な過失による精神的損害に対する賠償金及び当初の設計契約の断念料という2つの要
素が複合していると思われる。
もともと交通事故の場合を除き損害賠償金に相場なしとも言われ、金額はケ-スバイケ
-スとなるようである。
今回の事例の上限は、民法557条手付金の倍返しをすることにより売主は引渡し前で
あるため契約解除をすることができたので同額300万円が実質上限であると言える。
この場合Xの受領する金額は一時所得となる。所34-1(8)
判例では、隣接地のマンション建設工事に伴い収受した補償料は、日照障害に起因する具体的損害の予測やその額の見積りを行っていないので工事に反対する紛争解決金として一時所得に該当するとした事例(国税不服審判所 昭58.4.22裁決)
開設予定の診療所の開業が遅延したことによる損害賠償金は、その積算根拠が医療機器等のリ-ス料、光熱費、家賃等請求人の得べかりし収入であり、精神的苦痛等の対価として和解したものと認められないとして事業所得とした事例がある(平成11.3.23裁決)
当該事例の場合、得べかりし収入を補償するような交渉はなく、あくまで売主側の過失に係る精神的損害と当初の設計契約の断念料という2つの要素から構成されており、後者は一時所得に該当すると思われる。従って、精神的損害を見積ったうえで残額を断念料とする。
1.精神的損害(非課税金額)
(1)契約日から重大な過失が判明した期間の損害
現況図面と契約図面はもともと異なっており、誤った図面により事務所のレイ
アウト、業者への備品の発注を行っていたことによる損害を1日4000円とする(交通事故による通院の慰謝料1日4000円を参考)
4,000×139日=556,000円
(2)契約どおりの施行が行われていないことに気づき売主に対して文書により要望書を作成したことによる精神的肉体的苦痛及びXが黙していたらそのまま引渡しがされていたであろう精神的ストレスの補償 500,000円
(3)判明してから引渡しを受けるまでの打合せや引渡し遅延による精神的損害
4/14~4/26 100,000円×13日=1,300,000円
(4)(1)+(2)+(3)=2,356,000円・・・所法9非課税
2.一時所得部分
3,000,000円-(4)=644,000円・・・断念料