個人の方へ
法人成り
個人事業主、節税改
事例研究
所得税税法上 もくろみ、慣行及び嗜好として負担した支出(家事関連費)と必要経費の範囲について
専有部分の形状、床面積等が契約時のそれと異なったことによる迷惑料の所得の区分
譲渡所得の計算上、相続により取得した借地権の瑕疵について支払った和解金及び弁護士費用について取得原価算入の可否
財産評価基本通達第6項の問題点
高齢者に対して節税になると称し次の不動産を推定相続人に知らせず購入させた
税理士がいた。
物件所在地 品川区上大崎
土地 宅地 140m2 路線価(自用地)評価額31,600万円
建物 鉄骨造り陸屋根地下1階地上9階 880 m2 令和2年築
用途 店舗 総戸数10 満室賃貸中 表面利回4.25% 実質利回3.3%
固定資産税評価額14,600万円
同不動産は 一棟のビルの持分を小口債権化し、全体の口数を430口そのうち持ち分30口を一口500万円で購入させた。
路線価及び取引事例を基に評価すると推定時価よりもかなり高額であると思慮された
問題点
同不動産を推定相続人に贈与した時の課税関係はどのようになるか
財産評価通達6項の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合とはどのような場合をいうのか合わせて検討してください。
回答
相続税財産評価基本通達により評価を行う
具体的計算 単位 万円
1. 土地評価額
31,600×{1-0.8(借地権割合)×0.3(借家権割合)}= 24,016
2. 建物 14,600×(1―0.3)= 10,220
3. (1+2) × 30÷430 = 2388 万円
取得価額 15,000万円 圧縮率 1-(2388÷15000)= 84%
15,000万円で取得したものだが贈与価額は6分の1の2388万円となる
問題
財産評価通達6項の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合とはどのような場合をいうのか。
結論
評価通達で評価した価格より時価が著しく低くなる場合
個別事情がある場合
租税回避の防止を目的として適用される場合
の3つの場合がある
思考過程
相続税法22条では財産評価の原則を時価とする旨定めている。
(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
時価とは国税庁財産評価基本通達において
課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいい(前段)
その価額はこの通達の定めによって評価した価額による(後段)
としている。
つまり前段で時価を定義し後段で時価はこの通達によって評価した価額とすると
時価を規定している。
これは、時価の算定が難しいため通達で一律に時価を定め課税庁の事務負担や徴税コストが下げ納税者間も公平するための便法である。
よってたまたま取引があり取引価額が明らかであっても前段を根拠にその価額を時価として評価することはできない。
ただし、例外があり評価通達総則六項において (この通達の定めにより難い場合の評価)通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価格は国税庁長官の指示を受けて評価するとしている。
判例でも財産の評価の例外として通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合には他の合理的な時価の評価方法によることが許されるとしている。
なお、特別の事情=著しく不適当である。 山田重将 税務大学校研究部教育官
平成27年7月3日論文より
特別の事情があり通達で評価することが著しく不適当の場合とは
1、評価通達と市場価格との間に逆転が生ずる場合
つまり評価通達が実際の時価を超えているときである
バブルがはじけ路線価が時価の低下に追いつかないときなどである
ただし相続により取得した土地の相続税評価額を不動産鑑定士の鑑定評価額を基にした申告をした事案で評価通達の額が鑑定評価額を上回るとした事案で
地価が1年間で20%を超えて下落するような事情がない限りは、路線価方式による 宅地の価額が地価変動を理由に時価を超えることはなく、評価時点と相続開始日との間に一定の時間差があることをもって、直ちに路線価方式の合理性が失われるものではない(なお、本件係争土地について、平成23年1月1日から相続開始時ま での間に20%を超える地価の変動があったとはうかがわれない)。とし評価通達での評価額が時価を超えるものということはできず特別の事情があるとは認められない。として原告の請求を棄却した事例がある。
東京地方裁判所(棄却)(確定)平成31年1月18日判決
つまり路線価は時価の8掛なのだから時価の2割以内の下落は許容範囲であるした。
2、個別事情がある場合
例えば接道義務を果たしていない土地や著しい不整形地にも関わらず通達の減価規定では適正な時価とならない場合などである
上記二つのケースは 評価通達はで評価した価格より時価が著しく低い場合
(通達>時価)である
3、租税回避の防止を目的として適用される場合
通達が時価より低い場合(通達<時価)で
通達に定めた評価方式を画一的に適用するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害する場合
令和4年の最高裁の判例で節税目的で取得した不動産の評価について評価通達によると実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は評価通達6項を適用する合理的な理由があるとした。
概要は相続人らが94歳の被相続人死亡の3年5カ月前に1棟、2年6カ月前に1棟計13億8700万円のマンションを10億5500万円の銀行借入を行い購入。
資産の圧縮率76% 時価との差額4.1倍
相続開始後9カ月後そのうち1棟を売却し借入金を返済した。
当該物件の相続税評価額は約3億3000万で債務控除を行うと相続税額はゼロとなった。
最高裁は各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは 本件購入、借入のような行為をせず又はすることのできない他の納税者との間に 見過ごすことのできない不均衡を生じさせ実質的な租税負担の公平に反するから他の合理的な方法によって評価することが許され 鑑定評価額は各不動産の時価であると認められるから 更正処分は適法であるとした。
他にも同様の判例がある
最高裁平成5年10月28日
相続開始直前に借入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に他に売却し、その売却金で借入金が返済されている事案について
評価通達に定める方式によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、他の合理的な時価の評価方式によることが許される
として相続開始前3年以内に取得した土地又は建物についての相続税の課税価格計算の特例の改正以前における相続においても、相続財産の時価を購入価額とすることは適法であるした。
総則6項適用には4・3・1の法則があるといわれている
4・3・1の法則とは
通達評価額と時価との差額が4倍以上あり
評価対象の不動産は相続開始前3年以内に購入し
そして相続開始後1年以内に売却していることを言う。
今年の最高裁の判決では時価との差額は4倍であるが3年以上経過した不動産物件及び相続開始後2棟のうち1棟は売却していない。
つまり、4・3・1の法則に従っていれば更正を受けないというのは誤りのようである。
全ての判決に共通していることは不動産とともに借入れを行い債務控除により相続税額を圧縮している点である。
判例による否認内容
東京高裁 平成5年3月15日判決
相続開始前6カ月前借入により不動産購入
資産の圧縮額15億4000万円 圧縮率92% 時価との差額12倍
相続開始後すべて売却
最高裁 平成5年10月28日判決
相続開始前2か月前借入により不動産購入
資産資産の圧縮額6億3000万円 圧縮率82% 時価との差額約8倍
相続開始後すべて売却
東京高裁 平成5年12月21日判決
相続開始前8か月前借入により不動産購入
資産の圧縮額44億円 圧縮率78% 時価との差額4.5倍
相続開始後8割の資産売却
最高裁 令和4年4月19日判決
相続開始前の3年前後借入により不動産購入
資産の圧縮額6億円 圧縮率76% 時価との差額4.1倍
共通することは
1. 圧縮額が6億円以上の事案で時価との差額が4倍以上あること
2. 借入とともに不動産を取得していること
3. 結果として多額の相続税の負担を逃れていること
4. 相続事案であること
の4つが共通項としてあげられる。
税法は、あくまで常識の法律であり、税法の裏をかく方法が長続きすることはなく、税法というマニュアルにこだわりすぎた結果の6項適用と思われる。
今回の事例では、単に評価通達と取得価額に乖離があるだけなので評価通達による申告その後売却したとしても問題はないと思われる。
問題点
6項について創設当初は評価通達による過重な納税者の租税負担を救済する規定であったとする見解(大淵博義)があり
今回の事例でも区分所有物件が多数含まれている。理由は当たり前のことだが時価と相続税評価額に乖離があるからで20階以上のタワーマンションの場合には最大で6.9倍 平均3倍の開きがある。(税のしるべ3247号)
つまり昭和39年の通達制定当初ではまだ霞が関ビル(竣工昭和43年)すら建築されておらずこのような高層の建物が一般に普及することを想定して作られていない。
評価通達が陳腐化してしまっているにもかかわらず、それを改正せず6項を使って租税回避をふさぐことは、臭いにおいをもとから断たず消臭剤でごまかすその場しのぎの対応で、本来の評価通達を使うことの形式的平等、租税法律主義、納税者の予見可能性を損なうものとして問題があると思われる。