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税務士選びのポイント
事例研究
不合理な区分で土地・建物を購入した時の消費税、法人税の取扱い
区分所有建物を退職金として現物支給した場合の時価の算定と過大退職金の判定及び退職金の経理処理について
役員退職金の追加払いの可否と過大報酬
当社の役員Mが90歳で本年1月死去したため 同年3月に株主総会を開き1,500万円の役員退職金を支給することを決定した。
その後当社所有の不動産が思わぬ高値で売却できることとなったため
さらに500万円の退職金の支給をしようと思うが認められるか
また、支払う報酬は過大報酬に該当するか
M の役員報酬は月額5万円 勤続年数は50年である
回答
役員退職金の追加支給について1回目の総会後速やかに株主総会を開催し決議をすれば支給は認められる
思考過程
退職金の支給の要件は会社法第361条取締役の報酬等に定めがある
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益について次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていない時は株主総会の決議によって定める
1、報酬等のうち額が確定しているものについてはその額
2、報酬等のうち額が確定していないものについてはその具体的な算定方法
つまり、定款に規定がなければ株主総会の決議で決めなさいということである。
また退職金の 法的要件については最高裁昭和58年9月9日判決「5年退職金事件」がある。最高裁では
① 退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
② 従来の継続的な勤務に対する報奨ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
③ 一時金として支払われること
上記三要件をすべて満たす場合と三要件に準ずるような実質的な事実関係がある場合に退職所得に該当するとしている 。
当事例の場合 株主総会の決議の回数は会社法上規定がなく 3月の総会後速やかに株主総会を開催し決議をすれば 退職金の三要件を満たしている限り 役員退職金として 認められると思われる
回答
過大報酬に該当しない
思考過程
役員退職金について
法人税法上 法人が役員に対して支給する退職金の額のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されない。法人税法第34条2項。
この場合の不相当に高額な部分の金額とは その退職した役員の業務に従事した期間 退職の事情その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給状況等に照らしその役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える金額をいう。施行令70条2項
適正な退職給与の額をどのように算定するかについては実務上
① 功績倍率法
② 一年あたりの平均額法に基づいて算定し過大かどうかの判定を行われる
当事例を当てはめると功績倍率を3倍として①の方法で算定すると
5万円× 50年×3倍= 750万円 となる
この金額は50年法人役員を務めてきたものに対する対価としては著しく低いように思われる。
裁決事例でも 退職した代表取締役に支給した役員退職金30億円について直近の役員給与が30万円であったことから 役員退職した役員の退職時の最終月額報酬が適正額の算定の妥当性を欠き不合理なものとなるから最終給与月額を基礎としない一年当たり平均法により算出するのは合理的であるとした裁決
平成21年12月4日
また最終月額報酬が無報酬であった場合 平均功績倍率法を用いると算出要素となる最終月額報酬がゼロとなり退職給与相当額も0円となってしまい在任期間中の職務内容等から見て著しく不合理であるからこの場合は一年当たり平均額法によることがより合理的であるとした裁決平成23年1月24日がある。
したがって当事例においても1年当たり平均額法での算定が妥当と思われる。
しかし、 同業種類似法人の1年当たりの役員退職金の平均額金額は 課税庁のみ知り得る情報であり 我々には知るすべがない。
いろいろ統計資料はあると思われるが当時例では、ごくごく常識的な指標として国家公務員の退職金の相場から1年あたりの 退職金を算定した。
定年退職した 国家公務員の退職金 2294万円÷勤続年数37年=1年当たり平均退職金62万円 ×50年 =3100万円
当事例の場合相当な額以下の金額と判断される。
参考事例として
東京都産業労働局が発表している中小企業の賃金退職金事情令和2年版によるとモデル退職金
不動産業、物品賃貸業は 退職金支給額1125.9万円÷勤続年数33年=34.1万円×50年=1705万という指標もある。
個人的意見
過大役員退職給与の損金不算入の要件について
業務に従事した期間 退職の事情が算定要素となることは当然だと思われるが、 同業種類似法人の役員に対する退職給与の支給状況というくだりは すっきりしない項目だ。
なぜなら同業種類似法人は通常ライバル企業であることが多くその情報の獲得は難しく 納税者の予見可能性を保証する租税要件明確主義に反すると思われるからである。
課税庁側の言い分は恣意的な行為が行われることを防止しようとするもので課税の公平の実現のためやむを得ないものとしているが まるで速度制限の標識のない道路を走らされ速そうな車を見つけると「ここの制限速度は・・・」と切符を切られるようなもので 結局支給金額の妥当性は課税庁の裁量で決まることとなってしまう。
判例、裁決例を見ても 必ずしも功績倍率3.5以内が妥当というわけでなく、また平均功績倍率法と最高功績倍率法のどちらを選択すべきか 統一的な見解もない。
つまり 判例や解説書を読めば読むほど何を指標にしてよいか分からなくなるのである。
そして唯一わかることは 過大報酬ありきで その結論を導くために その都度都合の良い方法が選択されているように思われる。
ただし 問題となった事案は どれも常識的に見て退職給与として多いのではないかと思われるような事案で予見可能性を云々する前に租税の一般常識が働いていることを考える必要がある。
10人の税務職員がその金額は多すぎると思えばそれは相当な額ではないのである。
今回の事案についていえば追加払い分を加えても役員退職金は2千万円であり 役員として業務に従事し最終月額報酬は5万円といえども 半世紀にわたった功労金として相当かを常識に照らして考えればおのずと相当な額の範疇であるといえる。
税務職員時代 代表者の死亡保険金全額をその役員の死亡退職金に計上してきた会社があった。
全額退職金とした根拠を質問したが、その税理士から「保険金が下りたので全額支払いました。私は、いくらが税務上相当な額かわからないので、どうぞご検討ください」と慇懃に言われ署に戻り指導官のもと検討したが過去に同様の事例があり結局是認したことがあった。
過大退職金の問題は、智を働かせすぎて「相当な額」を抑制してしまい結果として納税額を増加させてしまうデメリットと「のほほん」と申告してすんなり認容されてしまうメリットがあることに留意して妥当な金額を算定すべきと思う。