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税務士選びのポイント
事例研究
不合理な区分で土地・建物を購入した時の消費税、法人税の取扱い
区分所有建物を退職金として現物支給した場合の時価の算定と過大退職金の判定及び退職金の経理処理について
重加算税賦課の可否
平成22年7月 税務調査において次の指摘を受けた。
当社は体育施設の整備を業とする同族法人である。
仕事の関係上得意先A社からコートローラーなどのレンタルを受けおり、その代金は、A社への売掛金から相殺されている。
しかし、経理担当者である代表者妻は当該レンタル料について別途領収書が発行されていたため誤って それを現金による支出として記帳し、現金が不足する都度代表者からの借入金入金として処理していた。
正しい仕訳
売掛金 90 / 売上 90
賃借料 10 / 売上 10
会社の処理
売掛金 90 / 売上 90
賃借料 10 / 現金 10
当社は経理担当者の知識不足による単純な誤りであると主張しているが調査担当者はこれにかかる増加税額には重加算税がかかると主張している。
問題点
上記行為は国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の対象となるか
また、経理担当者である妻は出金伝票の記票のみで金銭出納帳の記帳をしておらず、税理士が出納帳を作成し現金残高が不足するとその都度借入金処理していた場合はどうか
回答
1 経理担当者である代表者妻が出金伝票及びそれに基づいて金銭出納帳を記帳していた場合
重加算税の対象となる
2 代表者妻が出金伝票、税理士が出納帳を記帳していた場合
重加算税の対象となるとまで言えない
思考過程
1. 国税通則法第68条では納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは当該納税者に対して ~ 重加算税を課する。 としている。
具体的には国税庁の平成12年7月3日付の事務運営方針により次のものが不正事実として上げられている。
(1) いわゆる二重帳簿を作成していること
(2) 次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること
① 帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること
② 帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること
③ 帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること
(3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改
ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。
(4) 簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されてい
ない資産をいう。)に係る利息収入、賃借料収入等の果実を計上していない
こと。
(5) 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金又 は当該帳簿に費用を過大若しくは架空に計上することにより当該帳簿から除外した資金をいう。)をもって役員賞与その他の費用を支出していること。
(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社として
いること。
このほか、所得金額を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書(いわゆる
「つまみ申告」)を提出することは、隠ぺい・仮装に該当するとされている。
2隠ぺい・仮装に該当しない場合として以下に掲げる場合は帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。
(1) 売上等の収入を繰り延べている場合において、その売上等の収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき
(2) 経費(原価に算入される費用を含みます。)の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたことが確認されたとき
(3) 棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合
(4) 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等または寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合
3隠ぺい・仮装の意義
(1) 故意の要否
隠ぺい・仮装について最高裁は、納税者が故意に仮装隠ぺい行為を行い、その隠ぺい・仮装を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に申告に際し、納税者において過少申告の認識を有する必要はないと判示しており(最判昭62・5・8税資158・592)、課税庁もこうした立場に立っている。
したがって、脱税目的でなく隠ぺい・仮装行為が行われた場合でも重加算税の課税対象となる。
隠ぺい・仮装の行為自体については、故意に行ったものについて重加算税が課せられ、過失によるものまでは含まれないものと解されている。
しかし、その故意の立証は要求されず、その故意が外部からも客観的に推認できる程度であればよいとされているので、たとえ納税者がその意図がなかったと主張しても、それを立証できなければ、重加算税の賦課は避けられない。
(2) 行為の主体
隠ぺい・仮装の行為の主体は、納税者本人に限定されず、第三者がした行為であっても、重加算税の課税要件を満たしていると考えられている。ただし、納税者本人がそのことを知っていた場合には重加算税が課されることは当然だが、納税者本人が知らなかった場合にすべて重加算税の対象となるかどうかは諸説があり、判例においても納税者本人が知らなかったことを根拠に賦課処分を取り消しているものもある。
一般的には、役員・従業員・家族が行った隠ぺい・仮装については、納税者本人が知る知らないにかかわらず重加算税を課すべきであるという傾向にある。また、納税者と同一視し得るような立場の者が行った場合や、確定申告の委託を受けた第三者がした隠ぺい・仮装行為も、重加算税の課税要件に該当するものとされている。
当事例の場合
経理担当者である妻は2重の過失を冒している。
1つ目は現金支出の事実を確認しないまま出金伝票を起票していること。
2つ目はそれを現金出納帳に記帳していることである。
複式簿記の原則に従って記帳していれば現金残がマイナスになることが
わかり、そこで借入金を計上することは脱税目的で行った行為でないとし
ても、帳簿書類の虚偽記載に該当し仮装を原因とした過少申告であるとい
え重加算税の賦課の対象になると思われる。
事例2の場合は出金伝票を作成する者と金銭出納帳を記入する者が異な
っている。つまり、妻と税理士が個々に且つ独立して過失を冒してしてお
り故意に仮装をしているとまで言えない。