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税務士選びのポイント
事例研究
不合理な区分で土地・建物を購入した時の消費税、法人税の取扱い
区分所有建物を退職金として現物支給した場合の時価の算定と過大退職金の判定及び退職金の経理処理について
区分所有建物を退職金として現物支給した場合の時価の算定と過大退職金の判定及び退職金の経理処理について
平成26年12月6日
当社は設立36期目の住宅設備機器を扱う資本金70,000千円、従業員80名の同族法人である。
来年3月創業者である代表取締役Mは、会社の経営を息子2人に譲り役員を退任する予定である。
退職功労金にあたっては65,000千円を現金で支給し60,000千円を2年間の分割支給する予定である。
さらに法人が所有し第三者に賃貸している区分所有建物2部屋の現物支給を検討している。
Mの最終月額報酬は月額1,500千円である。
建物の評価額は次のとおり
●Sビル801号室 (空室時としての価額 以下同じ) 単位 円
固定資産税評価額 土地 5,300,000
建物 6,000,000
11,300,000
相続税評価額 土地 10,000,000
借地権割合70% 建物 6,000,000 (固定資産税評価額と同じ)
以上Gハイムも同じ 16,000,000
平成23年8月 33,800,000円で第三者から購入
簿価 土地 19,875,000
建物 13,347,000
33,222,000
現在の通常の取引価額(インターネットで表示される近隣物件から類推した価額33,000,000円空室時以下同じ)
平成5年築 45㎡ 家賃月23万円 事務所として賃貸
●Gハイム103号室
固定資産税評価額 土地 3,400,000
建物 3,400,000
6,800,000
相続税評価額 土地 13,400,000
建物 3,400,000
16,800,000
平成24年8月 22,500,000円で第三者から購入
簿価 土地 18,182,000
建物 4,000,000
22,182,000
現在の通常の取引価額 22,000,000円
昭和56築 58㎡ 家賃月23万円 事務所として賃貸
検討事項1
区分所有建物の時価を算定する時、納税者有利に考えた場合どのように評価すべきか
< 回答 >
次の方法により算定
1.土地については相続税評価額を時価に修正しさらに貸家建付地であることを考慮した金額、建物については簿価
2.収益還元法により評価した金額
3.1と2の平均額
●Sビル
1.土地
10,000,000÷0.8 = 12,500,000×(1-0.7×0.3)=9,875,000
建物 13,347,000
計23,222,000
2.利回り12%で算定
220,000×12÷12%=22,000,000
3.(1+2)÷2= 22,611,000
通常の取引金額33,000千円の約7割
●Gハイム
1.土地
13,400,000÷0.8 = 16,750,000×(1-0.7×0.3)=13,232,000
建物 4,000,000
計 17,232,000
2. 利回り12%で算定
230,000×12÷12%=23,000,000
3.(1+2)÷2=20,116,000
通常の取引金額22,000千円の9割
< 思考過程 >
法人所有の区分所有建物を第三者に現物支給した時、一旦時価で売却し、その価額をもって、当事例の場合役員退職金を支給したものとする。
時価について税法用語辞典では、
「資産のある特定の時における価額をいう。
時価という場合、資産の具体的な取引価額をいうのではなく、取引価額として一般的に成立するであろう客観的な価額をいうものであることはもちろんである。
時価には、資産の種類によって取得しようとする場合に考えられる価額、処分しようとする場合に考えられる価額及び資産を保持し、使用収益することを前提として考えられる価額などがあり、それぞれの評価を要請する事情を前提として考えられるべきである。
また、時価を求める評価技術の上においては、同種同型のものの取引価額から類推して時価を求める方法、その資産の複成価額を基として時価を求める方法、収益性を基として時価を求める方法などがある。」
と定義しているが、区分所有建物の場合その算定方法によりかなりの階差が生じることがある。
例えば
Sビル801号室
土地は固定資産税評価額を基に時価を算出
5,300,000÷0.7 =7,571,000 ①
土地は相続税評価額を基に時価を算出
10,000,000÷0.8 = 12,500,000 ②
建物は再建築価額に減価償却相当額を控除した額で算出
10,237,500-4,063,200=6,174,300円 A
固定資産税評価額基準 ①+A =13,745,000 となり平成23年時の取得価額33,800,000円と比べ4割程度下がる。
相続税評価額基準 ②+A=18,674,000 となり取得価額33,800,000円の半分程度の評価額となる。
Gハイムについても同様の評価をすると
土地
固定資産税評価額÷0.7=4,857,000 ③
相続税評価額
13,400,000÷0.8=16,750,000 ④
建物
再建築価額に減価償却相当額を控除した額
8,044,600-5083502=2,961,000 B
固定資産税評価額基準 ③+B=7,818,000
相続税評価額基準 ④+B=19,711,000
となり前者が購入価額22,500,000円の35%、後者が87%となる。
時価の算定にあたり、通常の取引価額を適用すれば現物支給について指摘されることはないと思われるが、時価のストライクゾ-ンを納税者有利に考えた場合、次の評価方法での価額も時価の範中に入いるのではないかと思われる。
土地の評価について判例では(東京地裁平成17年8月23日判決 )
「時価とは・・・客観的交換価値、すなわち、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうと解すべきである。
中略
路線価は、国税局長がその路線ごとに評定した1平方メ-トル当たりの価額であり、平成4年以降は、地価公示価格と同水準の価格の80パーセント程度を目途として定めることとしているが、これは次の理由による。土地の時価すなわち客観的交換価値は、地価公示価格とおおむね一致すると考えられるところ、路線価は、相続税及び贈与税の課税に当たって1年間同じものが適用されるため、その1年の間に地価が下落しても、その価格が路線価を下回らないようにする必要がある。このように、1年の間の地価の変動にも耐え得るものでなければならないこと等の評価上の安全性を総合勘案して、80パーセント程度という基準が定められたものである。一般に、時価すなわち客観的交換価値と相続税評価額との間には20パーセントの開差が存在することとなる。」
この判例に従えば相続税評価額は時価80%の水準であるため土地評価額を0.8で割り戻して算定すれば土地の時価を算出することができる。
また、賃貸物件のため貸家建付地の減価を考慮した。
また、建物については法人税基本通達9-1-19 (減価償却資産の時価を)を適用して簿価とする。当時例の場合定額法による。
(減価償却資産の時価)
9-1-19 法人が、(有形減価償却資産)に掲げる減価償却資産について次に掲げる規定を適用する場合において、当該資産の価額につき当該資産の再取得価額を基礎としてその取得の時からそれぞれ次に掲げる時まで旧定率法により償却を行ったものとした場合に計算される未償却残額に相当する金額によっているときは、これを認める。
(1) 法第33条第2項(資産の評価換えによる評価額の損金算入)
当該事業年度終了の時
(2) 同条第4項(資産評定による評価損の損金算入)令第68条の2
第4項第1号(再生計画認可の決定等の事実が生じた場合の評価損
の額)に規定する当該再生計画認可の決定があった時
また、2物件とも事務所として利用される賃貸物件のため収益還元法による価格を算定し先で求めた価格の平均額をもって評価額とした。
利回り12%の根拠は、事業用物件であること築年数が古いことを考慮した。
検討事項2
退職金の額は、不相当に高額とはならないか
< 回答 >
ならない
< 思考過程 >
前述した区分所有建物を加えて算定した役員退職金
現金一括支給のもの 65,000千円
分割支給するもの 60,000千円
現物支給のもの 42,727千円
合計 167,727千円
功績倍率
167,727 ÷ 1500千円 × 36年 = 3.10倍
過大な役員給与については令70二で、「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種・類似規模の法人の役員退職給与の支給状況等に照らして相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える分の金額(同条2号)としている。
東京高裁平成25年3月22日判決(最高裁上告破棄)は2社の平均をとり1.91倍である。
上記判決の検討
1.東京国税局管内で生じたものでない。長野県飯田の法人
2.業種が不動産賃貸業を営んでいた。
3.グル-プ企業4社がそれぞれ退職給与を支払っていた。
4.納税者側からは同種・類似規模の法人の役員退職給与の支給状況はわからず、速度制限を表示しないでネズミ捕りを行うようなもので納税者に予見可能性を与えない判断だと思われる。
ちなみにタインズで東京国税局の事案について調べてみると過去4件の事例が確認できた。
港区の肉屋で功績倍率2.1 最高裁確定 平成 9年3月25日
新宿のキャバレ-で功績倍率7.5 高裁確定 昭和52年9月26日
青梅の電気部品製造で功績倍率2.3 高裁確定 昭和51年9月29日
上野の不動産業で功績倍率3.0 最高裁確定 昭和60年9月17日
判例、裁決を見ると功績倍率について法人ごとの事情、地域性、業種が存在し、納税者側が知りえない同種・類似法人の支給状況を勘案した功績倍率が合理的であるとされる。
裁判となると納税者の分が悪いと言わざる得ない。
また、中小企業の役員退職金の支給実態についての公的な統計資料は、調べたが確認できなかった。
あくまで一般論だが当事例の場合概ね3倍程度の倍率であり退職金支給にあたり不自然な状況での退職でない為そのまま損金算入が認められると思われる。
検討事項3
退職金を一括処理した翌事業年度は欠損となるがそれを回避する処理方法はないか
< 回答 >
来年3月の株主総会時に前途の退職金支給決議を行えば、次の方法も可能。
1案 退職金 111,597,000 / C 65,000,000
譲渡損 12,677,000 / 土地 38,057,000
建物 17,347,000
60,000,000円は翌期以降支給の都度、損金経理
2案 仮払金 111,597,000 / C 65,000,000
譲渡損 12,677,000 / 土地 38,057,000
建物 17,347,000
株主総会決議に係る事業年度で、仮払金111,597,000円
別表四減算 翌期以降 60,000,000円は支給の都度、損金経理
< 思考過程 >
平成18年3月31日までは法令36条 「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」
したがって損金経理しなかった金額は損金の額に算入されず、仮払経理をした役員退職給与は損金に算入されなかった。
旧基通9-2-21 では「法人が、退職した役員に対する退職給与をその額が具体的に確定した日の属する事業年度以後の事業年度(それらの事業年度のうち連結事業年度に該当するものがある場合には、当該連結事業年度)において支給した場合において、その支給した額につきその支給をした日の属する事業年度において、仮払金等として経理したときは、その後の事業年度において当該仮払金等を損金経理により消却したときであっても、その消却した金額は損金の額に算入されないことに留意する。(昭和55直法2-8、平15課法2-7改正)」
しかし、平成18年度の税制改正により、現行の法人税法第36条「過大な役員退職給与の損金不算入」が「過大な使用人給与の損金不算入」に改められた。その結果、役員退職金を費用計上するためには法人税法上不可欠とされていた損金経理要件が、廃止されることとなった。
(役員に対する退職給与の損金算入の時期)9-2-28
退職した役員に対する退職給与の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
ここで言う損金算入とは損金経理をすることでなく損金経理をしていなくとも株主総会等の決議に係る事業年度で損金に算入(別表四での減算)が可能でまた、支払の都度損金経理をしても損金算入を認めるという趣旨であると思われる。